馬場 錬成氏
東京理科大学知財専門職大学院教授、科学ジャーナリスト
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第107回「道路舗装のハイテク工法を開発した日本企業の世界戦略」(2008/08/01)
古くて痛んできたアスファルト舗装道路を、全く新しい排水性舗装道路として生まれ変わらせるハイテク工法が日本で開発され、世界に広がろうとしている。すでに日本で特許になり、近く米国でも特許が成立する見通しとなった。カリフォルニア州道路局がこの技術を高く評価して公開入札工事の指定工法とし、今年8月25日から同州で大規模なパイロット工事を実施することが決まった。
再生ではなく、全く新しい道路に転換
この工法を開発して特許を取得したのは、東京のグリーンアーム社(細川恒・代表取締役兼CEO)。技術開発には、日立建機、住友建機、昭和シェル石油、光工業、TDE、ポンテックが参加し、工法を「HITONE」と命名して、日米などで商標登録した。
HITONEは、全長約50メートルの5台の車列で構成されている。古くなったアスファルトの路上をHITONEが分速3メートル前後でゆっくり進行しながら、(1)路面の加熱(2)かきほぐし(3)ふるい分けと混合(4)敷きならし――の4つの工程を自動的に処理していく。車列全体が通過するにつれて、水を透過する新しい舗装道路が出来上がっていくことになる。
特許となった中核の技術は、古いアスファルト舗装材料をいったんかきほぐしてふるい分けし、そこに新しい材料を加えた後に、道路の組成を変えて、全く新しい排水性舗装道路として作り直すところにある。工期短縮、コスト削減、環境負荷軽減が実現できるうえ、排水性舗装道路に生まれ変わることにより、多くの利点が生まれる。
細川CEOは「古くなったアスファルト舗装をかきほぐして再生する工法は従来からあったが、HITONEは再生ではなく、新しいものに転換する工法である」として、それを強調する「Hot
In-place Transforming」という工法のキャッチフレーズを日米などで商標登録した。
連続処理で道路が生まれ変わる仕組み
HITONE工程装置を簡単に説明すると次のようになる。
まず先頭に、路面を加熱する装置がある。熱風を高速で吹き付けアスファルトを徐々に軟化させる。路面に噴射された熱風は、外に漏らさないで回収して再利用するので、熱効率が高くなり、その分燃料を節約できる。
これにヒーターミラーという装置が後続する。路面をさらに深部まで加熱して軟化させ、グラインダー装置でかきほぐしていく。この時点で舗装道路は、大小の粒状に分かれる。
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装置が数珠つなぎになって連続処理をしながら道路を作り替えていく。(06年9月の千葉県の実証実験で) |
さらに、セパレーターという再生材ふるい分け装置が続く。かきほぐされたアスファルト混合物をコンベアで回収し、ふるい分けして直径が13ミリ以上の材料(大)、13−7ミリまでの材料(中)、7ミリ以下の材料(小)の3種類に選別する。
このうち13ミリ以上の大きな材料と7ミリ以下の細かい材料は、一緒に混合して道路の下層用材料として路面に落とし、中間物は新しいアスファルト材料と混ぜ合わせて道路の表層に敷き詰め、ローラーでならして仕上げる。下層部分は高密度になっているので水を通さないが、上層部分は排水性を持つようになり、これまでの舗装道路とは違った、新しいアスファルト舗装道路に生まれ変わることになる。
既存のアスファルト舗装道路を現場で連続工事しながら、排水性舗装道路に作り替える工法は、世界で初めてである。この工法の発明は、「舗装のアスファルト混合物層を路上で連続的に再生する方法およびそのための自走車両システム」として2004年12月に特許出願され、06年9月に特許として取得された。また同じ内容で米国特許商標局にも出願されており、米国の審査官とのやり取りの経緯から、特許になることは確実とみられる。